5

「地震か?」
「フリーザ様!」

 フリーザの正面の窓の外に、ぬっと巨大な影がかかった。続いて、野獣の唸り声が辺りの空気を震わす。びりびりと振動するガラスの外に、黒い巨大な獣がその姿を現した。獣は山をも砕く深い剛毛に覆われた両腕を振り上げ、今や一片の欠けもない真円の月を見上げて咆哮する。
「な…、なんだサイヤ人の猿か。びっくりさせやがる」
敵の襲撃かと身構えたドドリアとザーボンは、すぐに警戒を解いた。
「まったく、獣臭い星だ。うんざりする」
落ち着きを取り戻した2人の嘲笑など知りもせず、大猿は建物の前を悠々と横切っていく。
「サイヤ人の数が少ないのも納得だぜ。あんなでかい奴がそこらをうろついてみろ。この星は食う物もなくなっちまう」
ドドリアが大猿を指差す。大猿は密林の木々を腕の一振でなぎ倒していく。そして逃げ遅れた虎に似た猛獣を鷲掴むや、ただちに木に叩きつけて殺し、その四肢を引き千切って食事をし始めた。ドドリアは呟いた。
「ふん、みっともねえ奴等だぜ」
「しかし身体能力は高い。変身したのだから当然だが…」
彼らはしばらくの間、無言で大猿を眺めていた。

「潮時かもしれませんね」

フリーザが突然、沈黙を破った。
「フリーザ様?」
ザーボンは言葉の意味を掴めず尋ねた。
「何が潮時なのですか」
「サイヤ人です」
フリーザは窓に背を向け、ゆっくりと部屋を歩き始めた。
「上級戦士のサイヤ人でも戦闘能力はせいぜい1万ほど…。1匹だけなら、あなた達で充分戦えるでしょう。ですがもし、連中が徒党を組んだら」
ザーボンとドドリアにも、フリーザの言わんとするところは分かった。
「フリーザ様、それでは」
ザーボンの言葉を遮って、フリーザは続ける。
「しかし反抗的とは言えサイヤ人が役に立つことも事実ですからね。何人かは生かすことにしましょうか。
ザーボンさん、今から1年の期間で惑星ベジータを離れて任務に着く戦闘員のことを詳しく調べなさい。
ドドリアさんは惑星フリーザに戻って、サイヤ人と交戦できる部隊を召集しなさい。50人もいれば充分でしょう。頼みましたよ」

 フリーザの命令に、2人は威儀を正し部屋を退出した。ほどなくして、2機の小型宇宙船が惑星ベジータから飛び立った。上昇する流れ星のようなその光の筋が、この星に滅びをもたらすものだと知る者は、フリーザを除いてまだ誰も居なかった。

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