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 惑星ベジータは他の知的文明の発展した星に比べて重力が重い。加えて陸地のほとんどが熱帯雨林である。サイヤ人は文明的な環境に慣れて軟弱になってしまうのを嫌い決して空調を使おうとはしない。しかしさすがに異星人専用の宿舎は重力も室温も管理され、余所よりいくらか快適といえた。

 しんと沈んだ空気に足音を響かせて、男が一人宿舎の廊下を歩いていた。その男は女のように美しい目鼻立ちをしていた。肌は奇妙に青ざめた色で、サイヤ人でないことは一目瞭然だ
 今夜はどの建物も、窓という窓にシャッターが下ろされている。喪に服しているかのように静まり返った街。基地から宿舎までの間見かける者は異星人ばかりで、ここがサイヤ人の惑星だということを忘れそうだ。
 通路の向こう側から、この夜初めて見るサイヤ人が歩いてくる。異星人の賓客専用の世話係だった。空になった酒瓶を台車に乗せ運んでいる。それを見て、ドドリアはまた飲んでいるのか、と彼は一人ごちた。すれ違いざま、サイヤ人の腰に毛だらけのシッポがベルトのように巻き付いているのが見えて、男は反射的に顔をしかめた。醜いものを心から嫌悪しているのだ。目指すドアの前に立つと扉が滑るように開き、中に入った男の背後で音もなく閉まった。

「フリーザ様、只今戻りました」
一礼して顔を上げた男の眼の前に、満天の星空と深さも知れぬ暗い密林がどこまでも広がる。この部屋だけ、巨大な半円形の窓が覆いを掛けずに開かれているのだ。フリーザは男に背を向けて、部屋の中央に立っていた。男は報告を続けた。
「過去の記録を調べてみましたところ、約50年前、惑星ベジータが知的文明に発見された頃と現在のサイヤ人では、戦闘能力にかなりの差が見られました。特に近年になって、フリーザ様のお考え通り、突然変異のように強健なサイヤ人が生まれてきています」
「続けなさい」
「はっ、上級戦士の平均戦闘力はかつての1.5倍、数値にして4千程度上昇しています。最も数値の変化が著しいのは10代から20代の若年層で、平均戦闘力は過去の約3倍…となっています」
調査書から顔を上げると、フリーザは相変わらず背を向けたままだ。

「3倍だと? ほんとかザーボン」
部屋の隅で報告が終わるのを待っていたドドリアが声をかけてきた。
「ここにそう書いてある」
のしのしと重たい体を運ぶように近寄ると、ドドリアはザーボンから書類を受け取った。甘ったるい果実酒の匂いがした。酒は水の代わりだと豪語するドドリアだったが、今夜は顔の赤味がいつもより濃いようだ。こんな田舎の星では、飲むより他にすることがないのだろう。そのドドリアの酔った頭でさえ、調査書の数値の異常さには気付いたようだった。
「たった50年で、種族全体が進化したってえのか?」
ドドリアは食い入るように書類を見た。
「進化かどうか、何しろ50年も前の記録だ」
「まあそうだよな。それに上がったなんて言ってもせいぜい1万…」
ドドリアが言い終わるより前に、建物全体がずん、と振動した。
「何だあ、地震か?」

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