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 惑星ベジータには大型宇宙船が常時発着できる基地は、ただの一カ所しかなかった。その基地ですらも他民族によって建設されたもので、管制官や基地の管理などという仕事は、戦闘能力の低い老人か、落ちこぼれの下級戦士のすることだと考えられていた。サイヤ人とは、全ての価値を力で測る民族だったのである。
 15歳ほどのサイヤ人の少年が、基地の環状通路を足早に歩いていた。彼の父親は人に嘲られる基地関係職で唯一の花形、守備隊の隊長であった。通路の先に、窓の外を見つめて佇む父親の姿を見つけた少年は、心持ち足を速めて呼びかけた。
「隊長、国王陛下がお呼びです」
「陛下が?」
バーダック守備隊隊長はちらりと息子を見やると、再び視線を眼下に広がる密林に戻した。
「何のご用だと言っていた」
「はい、近く百人規模の軍団を編成することになったので、守備隊からも精鋭を募るそうです。隊長に能力の高い者を選べと…」
「百人だと? 確かにそう仰ったのか」
「は、はい。新しい軍団の演習も兼ねて、どこかの惑星を攻撃するそうです」
父親の語気に、息子は表情を緊張させながら答える。バーダックは顎に手を当てて考え込んだ。
「ふむ…、ついにフリーザと一戦交えるということか? …ともかく直にお話を伺ってこよう」
何のお咎めもなしと判断した若者は、やっと緊張を解き、その場を立ち去ろうとした。しかし、すぐさま厳しい声が投げつけられる。
「待て、ラディッツ。貴様、今回も中級戦士に昇級できなかったそうだな」
「は、はい」
背を向けかけていたラディッツは、ぎくりとした様子で父親を振り返った。
「いつまでガキや老いぼれに混ざって下級戦士でいるつもりだ」
バーダックは声を荒げる訳ではなかったが、息子はその腕組みをした姿の威圧感に、掌に汗をかきはじめていた。
「も、申し訳ありません。次こそ必ず…」
「我が一族に恥さらしはいらん。意味が分かるな?」
ここで下手な返事をすれば、たちまち殴り飛ばされ壁に激突させられるか、強化ガラスを突き破って密林に落とされるかだとラディッツは知っていた。
「はい…、分かります」
「次に会う時までに、もっと鍛えて来い」
「はい…」
バーダックはそう告げると、息子に背を向け歩き出した。ラディッツはその父の背後で、気付かれないようそっと息を吐く。
「畜生、いまに見ろ…」
憎々しげに顔を歪めてそう呟くと、ラディッツは拳でガラス窓を叩いた。歯を食いしばって窓の外を見上げれば、暗い空に、満月に一夜足りない月が煌々と照っていた。

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