Coolbiz
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「…なんなんだよ、この暑さはよォ。」

まだ文月だというのに、瀬戸内海から吹き抜ける風は真夏の風そのもの。
鯔背に浴衣でも着こなせば幾らか涼しいのだろうが。
これから同盟国との軍議を控えている元親は、具足を着込んで縁側に佇んでいる。
バサバサと扇子で扇いではいるが、所詮焼け石に水。
額をツイと汗が流れ落ちる。

「まだ時間もあるし、水風呂でも入ってくっかァ…」

パシンと扇子を閉じ湯殿へと向かおうとした時、中庭から聞き慣れた声がした。

「Long time no see…pirate of 乳首。」
「あァ、独眼竜か…って、なんだよ?なんとか乳首って!」
「Ha ha!褒め言葉だ、気にすんな。野郎共にも教えときな。」
「…なんか嘘臭ェな。まぁ、いいや。後で野郎共にゃ言っとくわ。とりあえず上がりな。」

怪訝そうな顔をしながらも、とりあえず納得したようだ。
部屋に上がり胡座を掻いた政宗の姿を見遣ると、首を傾げた。
炎天下の中をやってきた割に、元親と対照的に汗一つ掻いていない政宗。
既に暑さで限界の元親は、涼しげな顔をしている政宗に問い掛ける。

「なぁ…暑くねェのか?」
「全然。」
「はァ?死ぬ程暑いだろ?なんで暑くねェんだよ?」

子供の様にぎゃあぎゃあと言い返すと、政宗はサラリと答えた。

「Cool guyだから。」
「…クル貝?ミル貝なら旨ェけどよ。」

政宗の言葉がさっぱりわからなかった元親は、とんちんかんな言葉を返す。

「Hey hey!俺は食えねェぜ?」

カラカラと笑いながら、政宗は言う。
元親はといえば、いつも肩に引っ掛けている上着を脱いで上半身はほぼ裸同然。
それなのにその体はしっとり汗ばんでいる。

「アンタ本当に暑がりだよなァ。」
「ッせ!陸の暑さは苦手なんだよ。」

元親が言うように、灼熱の太陽が照り付ける海上では潮風が体を冷やしてくれるおかげで平気なのだ。
だが、風通しが良くない室内の暑さには滅法弱い。

「鬼が夏バテしてりゃ世話ねェぜ?」
「鬼だって暑ッちィ時は暑ッちィンだよ!」
「Ha!そう思っていいモン持ってきてやったぜ。」

そう言うと傍らに置いていた風呂敷包みから、何やら取り出した。

「暑がりなクセに野袴なんて履いてっから暑いんだよ。コレ履いてみな。」
「あァン?」

政宗は手にしていた黒い布状の物を元親に手渡す。
其れを受け取るとバサリと広げ、裏返したりしながら問い掛ける。

「なんだよコレ…」
「Coolbiz.」
「くぅるびず?」
「野袴代わりに履いてみな。涼しいぜ?」
「…コレをか?」

眉間に皺を寄せながら元親がそう言うのも無理はない。
野袴代わりだと言う網状の其れは、向こう側が透けて見えている。

「…こんなペラッペラなの履いて斬り付けられたら終いじゃねェかよ?」
「Don't worry.ちょっと其れ、貸してみな。」

政宗は元親から黒い其れを受け取ると、左腕を通した。
そしてやおら腰に差した刀を抜いた。

「おいおい…何おっ始めンだよ?」
「まぁ、見てなって。」

ニヤリと口角を上げ、頭上に刀を振り上げる。

「It's show time!」

威勢のいい掛け声と共に振り降ろされた刀が狙うは政宗の左腕…

「あんぎゃァァァァァッ!」

物凄い叫び声をあげながら顔を手で覆う元親。
屋敷中に響き渡った叫び声で、野郎共が駆け付けた。

「アニキィィィッ!大丈夫ッスか?」
「腕ッ……腕がスパーンッて!」
「アニキ…誰の腕ッスか?」
「独眼竜に決まってンだろ!」
「はァ?右も左も立派なのがくっ付いてますぜ?」
「嘘吐け!あんだけ勢い良く振り降ろしたらスパーンだろ!」
「手どけて見て下さいよ、ホラ。」
「イヤァァァァッ!」

戦場での血は見慣れていても、戦場以外で血を見るのは苦手らしい。
ましてや其れが独眼竜だったものだから堪らない。
無理矢理顔から手を引き剥がされた元親は、恐る恐る目を開く。
目にしたのは、ニヤリとしながら扇子で扇いでいる政宗の姿。

「そんなに心配してくれるたァ嬉しいじゃねェかよ?」
「てめェ…騙しやがったな?」
「だから平気だっつったろ?」
「ぐ…」

悔しそうに政宗を睨み付ける元親。
見るに見かねた野郎共は、元親に声を掛けた。

「アニキー、くっ付いてンだからいいじゃないッスか。」
「そうッスよ。シャレッスよ、独眼竜のアニキの。」
「シャレで済むかよッ!」
「Ha!野郎共にゃ、俺のjoke通じたみてェだな。」
「アニキ、西瓜でも食って落ち着いて下さいよ…」
「チッ…西瓜ありったけ持ってこい!」
「へいッ!」

西瓜を取りに部屋を後にした野郎共の姿が見えなくなったのを確認すると、政宗は畳の上で笑い転げた。

「What the hell?アンタ戦場じゃあんだけ返り血喰らっても平気なのによ!」
「ダチの血見るのが苦手なんだよ!」
「なんだ、ダチかよ…」

政宗が溜め息混じりに言うと、元親は物凄い剣幕で問い返す。

「ダチ以外に何だッてんだよ?」
「Ah…steady?」
「…捨てでい?」

毎度の事ながら元親は、言葉の意味がさっぱり分からないといった様子でオウム返しに答えた。
政宗は体を起こすと、元親にスッと顔を近付けて告げた。

「恋仲って意味だぜ。」
「独眼竜…アンタ暑さで頭沸いたんじゃねェ?」

哀れむ様な視線を浴びせながら元親は言ったが、政宗は全く気にしていない様子である。

「ッと、忘れてたぜ。頑丈だろ?コレ。」

政宗曰わく、野袴代わりだという黒い網状の其れをヒラヒラさせながら、得意気に言った。

「確かにすげェな。何処で手に入れたんだ?其れ。」

珍しい物には目がない元親は、政宗の手にした其れが気になってしかたないようだ。

「真田の所の忍に作らせたンだよ。」
「すげェ…さすが忍だな。」

再び政宗から其れを受け取ると、引っ張ったり透かしたりし始める。

「なぁ、履いてみろよ。」
「あー…確かに涼しそうだけどよォ…」

腰に当ててはみるがなかなか履こうとしない元親に、政宗は問い掛ける。

「…どうかしたか?」
「コレ、透けねェか?」
「草摺があるから平気だろ。」
「前はいいぜ?けどよ…ケツ丸出しじゃね?」

普段の言動からは想像のつかない元親の反応に、政宗はカラカラと笑いながら言う。

「野郎がケツ丸出しぐれェ気にすんな!」
「はァ?独眼竜ケツ丸出しで平気なのかよ?」
「No problem.気にもしねェ。」

きっぱりと答えた政宗に、溜め息混じりに元親は言う。

「アンタ漢らしいわ…」
「そりゃあ小十郎みてェなのが四六時中傍に居たら、そうなるぜ。」
「…右目の兄さんのケツは、想像したくねェな。」

何か勘違いした元親はそう言ったが、政宗はまるで聞いていない。

「いいから履いてみろよ。涼しいぜ?」
「あー…そんなに言うなら履いてみっか。」

元親は臑当を外して立ち上がる。
そして野袴に巻いている柔らかな錦を解く。
するりと衣擦れの音をさせ床に野袴を脱ぎ捨てると、政宗から手渡された其れに足を通した。


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