Pour some sugar on me
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「…ん……」
 格子窓から射し込む陽の光と雀の声に、元親は目を覚ます。光の射し込み具合から考えると、辰の刻といったところか。日頃早起きの元親にしては珍しく遅い目覚めだ。
 水でも飲みに行こうかと体を起こしたところでスッと伸ばされる政宗の腕。しなやかな腕は元親の細腰を捉えキュッと引き寄せる。
「…あン?」
 元親は政宗の顔を覆う掛布団を捲ってみる。昨晩情を交わした時の侭一糸纏わぬ姿で、スースーと規則的な寝息を立てる政宗。起きる気配は全くない。
 水を飲むのを諦め再び布団に横になる。政宗の背中に腕を回して抱きしめると、ふわりと慣れた香の薫りが鼻を掠める。上質な伽羅の香りは政宗の匂いと相俟り愛おしさを増す。
 顔を覆い隠してしまっている黒髪を指で掬い、意外と柔らかい感触を愉しむ。暫くくるくると髪を指に絡めて弄っていたかと思うと、長い前髪を掻き上げた。
 つい数刻前の艶やかな表情は形(なり)を潜め、あどけなさの残る寝顔。其のどちらも目にする事が出来るのが自分だけだと思うと、元親の独占欲は満たされていく。さらりとした髪もしなやかな指先も艶やかな声も…政宗を構成する全てが欲しくなる。
 指先を顎に掛けて上向かせると、ん…と声が洩れた。甘い其れを飲め込む様に、元親は深く口付けた。元親の舌は、慈しむ様に熱い口内を這う。政宗の体温まで手中に収めるかの様に其の温もりを愉しむ。
 と、其の時元親の舌先を追う様に絡められた政宗の熱い舌。突然の反応に驚きながらも、政宗の舌先の動きに合わせ深く口付ける。
 雀の鳴き声と淫らな水音。同じ空間で感じる事はない筈の其れは、二人の鼓動を高鳴らせた。
「ッ……」
 堪え切れずに元親が唇を離す。元親の反応を楽しんでいる様な表情で政宗は見つめた。先程までのあどけなさは何処へやら、流し目気味に見つめる姿に軽い溜め息を吐く。
「…いつから起きてやがった?」
 さらりと髪を撫でながら問うと、不遜な表情で政宗は答える。
「…最初っから。随分と惚れられちまったもんだな。」
 眠っているとばかり思っていた元親は、愛おしさを微塵も隠さずに政宗に触れていた。普段はそんな事は滅多にしないものだから、途端に恥ずかしさで顔が熱くなる。
「てめぇ…」
 照れ隠しなのか低い声で唸る。だが、元親の心中などお見通しの政宗は、気にもせずに細腰を抱き寄せる。
 その刹那、下腹に感じた熱い熱に元親はフッと笑う。
「…朝から誘ってんのか?」
 耳朶を食みながら、甘く低く囁く。
「いいじゃねぇかよ…誰も来ねぇ。」
 首筋から胸元へと落とされる唇。時折所有の紅い華を咲かせながら、しなやかな指先は元親の広い背中をなぞる。六爪を自在に操る時とは異なる繊細な指遣いに全身か粟立つ。浅い吐息と共に、元親は政宗の肩口に顔を埋めて問い掛ける。
「ッ……右目の兄さんは?」
「No problem. 今朝は起こすなって言ってある。」
 真夏の太陽が身を焦がす様に、政宗の眼差しは元親を灼いた。
「はッ…想定内って事かよ。」
 政宗の掌で転がされているように思えてチッと舌打ちをする。拗ねた子供の様な仕草が愛しくて、元親の形の良い唇に己の唇を重ねた。
 背中に回された腕に力が篭る。触れた元親の厚い胸元から感じる鼓動は早鐘の様だ。戦場でも鼓動を一切乱す事のない元親。其の元親が腕の中で鼓動を高鳴らせているという事実は、政宗を一層昂ぶらせた。
「…アンタが艶っぽ過ぎんだよ。」
 甘美な低音で告げると、元親の体を布団に組み敷いた。元親だけを映した左の瞳は刃の如く胸を貫いた、
「…嫌ならやめてもいいんだぜ?」
「…やめる気なんてねぇだろ?」
「Hell yeah. アンタもだろ?」
 不遜な表情で政宗が答えると元親はフッと笑う。腕を伸ばしてグイと政宗の体を引き寄せ、耳元に唇を寄せて囁いた。
「…悪かねぇ。」
 鹿威しの甲高い音を合図とする様に、どちらからともなく唇を重ねた。

―完―

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