T.K.G.
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櫃から炊きたての飯を丼に装う。
丼は長曾我部家に代々伝わる由緒正しいものである。
文様も美しい大ぶりな其れに装われたのは、当然最上級の新米だ。
野郎共が愛情たっぷりに炊き上げた白米は、米の一粒一粒が立っていて見た目にも旨さを醸し出している。
熱々の湯気を出しながら、元親を誘惑する。
だが、そんな誘惑に簡単に乗る元親ではない。
本漆塗の箸で装った山盛りの飯の頂点に窪みを作ると、カツンと額で地鶏の卵を割り窪みに落とす。
朝産んだばかりの卵は、こんもりと盛り上がり新鮮さを強調する。
ニンマリと新鮮な卵で覆われた飯を見つめると、醤油差しに手を伸ばす。
醤油は土佐の生醤油。
何があっても此だけは譲れない。
遠征に出る時でさえも、生醤油の樽を持参する程だ。
濃い山吹色の黄身の上に、一筋だけ生醤油を垂らす。
多過ぎても少な過ぎてもいけない。
此の一筋という量が絶妙な黄金比なのだ。
ツイと山吹色の黄身を濡らし、じんわりと飯に染み込む生醤油。
山吹色と暗褐色の色合いを暫し楽しむと、満足気に塗箸で黄身をを崩した。
しゃくしゃくと卵と飯をかき混ぜる。
細かな泡が食欲をそそる。
だが、まだ納得しない元親は、黙々と卵をかき混ぜる。
繊細な手つきで飯と卵をかき混ぜる。
黄金色の泡がふんわりと立った時、漸く箸を止めた。
達成感に満ち足りた表情で黄金色に輝く卵かけご飯を見つめると、丼を手にして愛でる様に塗箸を差し入れた。
箸で黄金色の飯を掬う。
ゆっくりと口元へと運ぶ。
元親の形の良い唇が開かれ、卵かけご飯を口内に入れようとした刹那、スパーンと勢い良く襖が開かれた。

「おゥ、西海の。」
「あン?」

遠慮なく室内に入ってきたのは政宗だった。
卵かけご飯を楽しもうと思っていた元親の眉間には、深い皺が刻まれた。

「なんだ、飯か…って、それだけかよ?」

まじまじと丼を手にした元親を見つめ、政宗は驚いた様子で問い掛けた。

「うるせェな。今日は卵かけご飯の気分なんだよ!」
「一応国主なんだからよ…卵かけご飯だけってのはどうよ。」

そう言ってドカリと元親の前に胡座を掻くと、懐から煙管を出して火を点けた。

「オイオイ、そんじょそこらの卵かけご飯と一緒にしてくれるなよ。米は野郎共が丹誠込めて作った新米、卵は朝採りの地鶏の卵よ。」

得意気に元親は言ったが、政宗は納得していない。

「Ha!素材が良くても所詮卵かけご飯の域は出ねェだろ?」

紫煙を深く吐き出した政宗に、元親は問い返す。

「独眼竜、アンタ飯は?」
「食ってねェ。」

政宗の答えにニヤリと笑うと、元親は告げた。

「…騙されたと思って食ってみな。」

そう言ってまだ口を付けていない卵かけご飯の入った丼を差し出す。
政宗は煙管を傍にあった煙草盆に置くと、丼を受け取った。
ズシリとした重みに半ば呆れた様子で、政宗は言う。

「…卵だけでどんだけ飯食うんだよ?」
「食ってみりゃわかるって。」

そう言って丼と箸を手にした政宗を見つめる元親。
元親がそこまで言うならば…と政宗は、箸で黄金色の卵かけご飯を掬うと一口頬張る。
其の瞬間、政宗の左の眉がピクリと動いた。
じっくりと卵かけご飯を味わう様に噛み締めると、コクンと飲み込んだ。

「…marvelous.」
「…旨ェか?」

南蛮の言葉の意味がわからなかった元親は、政宗をじっと見つめながら問い返す。

「あぁ、本当に卵と醤油だけかよ?」

今まで口にしたことのない蕩ける様な味に驚く政宗。
元親は待ってましたと言わんばかりに語り始めた。

「おゥよ、卵と醤油だけよ。だがな、そんじょそこらのモンとは違うぜ。」

元親は膳の上の小籠に入った卵を手に取った。

「コイツは今朝採れたばかりの地鶏の卵だ。朝から晩まで野山好き勝手に駆けずり回って、お天道様の光たっぷり浴びてっから味が濃いんだぜ。」

卵を手にした侭元親は更に言葉を続けた。

「俺は醤油だけは煩くてよォ。生醤油じゃねェとな。」

得意気に語られた卵かけご飯の説明を聞きながら、政宗はペロリと平らげた。
トンと膳の上に丼を置くと、元親の手の中の卵をヒョイと摘み上げて告げた。

「この卵がねェ…」
「ずっしりしてるだろ?」
「確かにな。」
「卵だけでも旨ェんだぜ。」

掌の上で卵を弄っていた政宗だが、元親の言葉で突然何かを思い付いたようだ。

「…お?」

元親の腕を引き、ぐっと体を引き寄せる。

「…あン?」

胸元から手を差し入れると、両袖を器用に抜く。
上半身裸の元親を畳の上に押し倒すと、馬乗りに跨った。
ほんの一瞬の出来事に、元親は何が起こっているかわかっていない。
政宗は握った侭の卵をコンと膳の角に当て、元親の胸元に卵を割り落とした。

「…ッ!てッめェ…」
「卵だけでも旨いんだろ?」
「……?」

政宗の問いにキョトンとする元親。
政宗は指先でぷるんとした黄身を崩した。

「ッ…何してやがる?」

キッと政宗を睨み付けたが、気にせず指先でツイと胸元をなぞる。
卵のヌルリとした質感が、なんとも言えない淫靡さを醸し出す。

「どうせならアンタと一緒に味わおうかと思ってな。」

そう言うと胸元に広がった卵をペロリと舌先で舐め上げた。

「…ッは…」

元親は堪らず短く声を上げた。
胸元に広がる山吹色の卵を丹念に舐め取っていく。
ゾクリとした感覚が胸元から全身に広がり、唇を噛み締めながら体を撓らせる。
白い喉元を晒す元親の体からは、力がスッと抜けていく。
政宗は元親の両手を頭の上で纏め上げると、胸元の突起を口に含んだ。

「くッ……てめェ、何サカッてやがんだ!」
「Ah-hun? 卵を美味しく頂こうとしてるだけだぜ?」

そう言うや否や、かりりと胸の突起を甘噛みしてやる。

「あッ…ふッ……馬鹿!やめろッて!」
「Wait a sec, まだ卵食い終わってねェ。」

反対側の乳首も口に含むと、舌の上で転がす様に弄ぶ。
弱い所を一気に攻められ、振り解く力も残っていない。
抵抗しないのをいい事に、政宗はやりたい放題である。
政宗の舌先が触れる度に、チリチリと焦がされる様な感覚が走る。
思考とは裏腹に、体は更に強い刺激を求める。
下帯の中の元親の雄は、ゆっくりと主張を始めていた。
もうどうにでもなれと元親が半ば諦めた頃、政宗は元親の胸元から唇を離して満足そうに言った。

「…ごっそさん。確かに卵だけでも旨ェな。」

そう告げると政宗は立ち上がり、部屋を後にしようとする。
中途半端に煽られた元親は堪らない。
畳の上にクタリと身を投げ出した侭、政宗に噛み付く様に問うた。

「てめェッ!朝っぱらから何しに来たんだよ?」

振り向き様に政宗は答える。

「朝飯食いに寄っただけ。」
「はぁ?」
「小十郎待たせてるから行くわ。」

そう言って政宗は襖を開けると、唖然としている元親に言う。

「…続きが欲しけりゃ可愛くおねだりしてみな。」

口角を上げて言った政宗に、元親は声を荒げて言い返す。

「ッせ!とっとと帰れや!」
「ンだよ…素直じゃねェなァ。」

政宗はフッと笑うと、柱に凭れ掛かりながら言う。

「…今度はもっと卵用意しとけよ。」
「うるせェ!このド変態!」
「嫌いじゃねェクセに。」

カラカラと笑いながら、政宗は部屋を後にした。
一人部屋に残された元親は、まるで政宗に心中を見透かされた様で苦笑いするとフゥと溜め息を吐いた。


―終?―
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