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夜半から降り始めた雨は、次第に強さを増していく。
屋根を叩く雨音が耳障りに思える程に、大地を濡らしていく雨。
否、もしかしたらかなり前から強い雨だったのかもしれない。
雨音が聞こえぬ程に激しく情を交わしていたから、気付かなかったのだろう。
情事後の気怠さを感じながら布団に身を投げ出した二人を、行灯の仄かな灯りが照らす。
次第に落ち着いてきたとはいえ、まだ其の呼吸は浅く短い。

政宗が元親の躯を抱き寄せてやると、突然左の目を押さえながら掠れた声で短く言葉を発した。

「ッ…」
「…どうした?」
「…疼きやがるんだわ、此処。」

眉間に皺を刻みながら答えた元親の表情は、少しばかり辛そうだ。
政宗は元親の手を取り顔から離すと、そっと左の瞼に口付けた。

「熱いな…冷やすか?」
「あー…暫くすりゃ落ち着くからいい。」

そう言って瞼を閉じた元親を胸元に抱き締めると、背中を優しく撫でてやる。
暫く心地良さに身を委ねていた元親だが、幾分落ち着いたのかぽつりぽつりと語り始めた。

「…こう雨が酷ェと、堪んねェな。」
「湿気が高いと古傷が痛むって言うもんな。」
「だろ?梅雨時なんざ拷問だわ。」

カラカラと笑いながら元親は言った。
同じ隻眼である政宗も其れは同じであった。
梅雨時には吐き気を催す程の頭痛にしばしば襲われる。
だから他人事とは思えないのだ。
少しでも楽になるようにと首を揉んでやると、元親はククッと笑った。

「Ah? 擽ってェか?」
「違ェよ。なんか似合わねェからよ。」

元親の言葉の意味がわからなかった政宗が訝しげな表情で見つめると、ニヤリと笑いながら政宗に告げる。

「アンタらしくねェ…優し過ぎんだよ、なんか。」
「Ha! それじゃまるでいつもは優しくねェみてェだな。」
「俺に優しくした事なんかあるかよ?」
「…確かにな。」

苦笑いしながら政宗は答えた。
本能の侭に元親を抱いて、互いの精が尽き果てるまで情を交わし合っているのだから。
とは言うものの、元親は其れが政宗の愛情表現である事は百も承知であるし、政宗も元親が己の愛情表現を理解しているという事を確信している。
天上天下唯我独尊なように見えて、嫌がる事は決してしないのだ。
其れは相手が元親に限っての事ではあるのだが…。

「…偶にはこういうのもいいだろ?」

元親の耳元で、政宗は甘く低く囁いた。
そして元親の頬や首筋に、触れるだけの口付けを政宗は落としていく。
時折所有の紅い華を咲かせながら…。
其れを擽ったそうに受けながら、元親は言う。

「ククッ…この嵐が来てんのはアンタのせいかもな。」
「…俺も雨は好きじゃねェ。」

首筋から胸への稜線沿いに口付けを落としながら答えた。
大地を濡らしていく雨に負けない程に、次々と紅い華を咲かせていく。
唇が触れた所から身を焦がされる様な感覚を覚えながら、元親は再び欲海へと誘われていく。

「ふッ……んッ…」

政宗の唇が細腰に達すると、元親は甘い声をあげた。
甘美な快楽に身を委ねながら、元親の脳裏に疑問が生まれた。

「なァ…」

政宗の髪をクシャリと撫でながら、元親は問い掛ける。
割れた腹筋に紅い華を咲かせると、顔を上げて短く問い返した。

「An?」
「…アンタ平気なのかよ?」

自分と同じ隻眼である政宗が、普段と変わらない様子である事が気になったのだろう。
だが政宗は元親の問いには答えず、下腹部から胸元へと口付けを落としていく。
問いに答えない政宗に文句の一つでも言ってやろうと思ったが、政宗の唇から与えられる快楽が元親から言葉を奪う。
元親の口元から紡がれるのは、浅い吐息と甘い声のみ。
白い喉元を晒し、躯を反らせて喘ぐ。
躯は火照り、其の熱は内側から元親を焦がしていく。
焦れた元親は、上の方へ位置を変えた政宗の躯をがしりと抱き締めた。
そして肉食獣が捕らえた獲物に止めを刺す様に、政宗の首筋に牙を立てる。

「くッ…」

チリリと感じる首筋の痛みに、思わず声をあげた。
行灯の淡い光で艶やかに照らされた首筋から唇を離すと、誘う様に形の良い政宗の唇に口付けた。
応戦するかの様に、政宗も舌を絡める。
唇から洩れ出す淫らな水音は、激しい雨音に掻き消されていく。
たとえ雨が降っていなくても、そんな事は気にならなかっただろう。
久々の逢瀬を謳歌する様に絡め合った舌先から、互いの熱を感じ合う。
暫しの間唇を重ねていたが、突然元親が唇を離した。

「…ッたく、焦らしてんじゃねェぞ。それに、さっきの問いに答えやがれ。」

元親は腕の中に閉じ込めた侭の政宗に、不満げに告げた。
政宗はフッと笑い、更に甘い声で元親の問いに答える。

「…心配してくれるんだ。」
「違ェよ!」

すっかり心中を見透かされていた元親だが、素直に認めようとはしない。
そんな仕草が愛しくなった政宗は、するりと元親の腕の中から抜け出した。
射抜く様な眼差しで元親を見つめながら言ってやる。

「…そりゃあ疼くぜ。」

甘い低音で告げた政宗の表情がゾクリとする程艶やか過ぎて。
元親は再び言葉を失う。
獣の様にしなやかな躯で元親に覆い被さると、唇が触れそうになる程顔を近付け甘い言霊を紡いだ。

「だが…アンタの事を思って疼く体に比べりゃ、どうって事ねェ。」

甘い言霊は元親の鼓動を一際大きく跳ねさせた。
そして其の心すら政宗に雁字搦めに捕らわれる。
元親の唇に己の其れを重ねた政宗の表情は、見た事もない程に優しかった…。


―完―
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