雨の匂いと…
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「チッ……雨になるな。」
「Rain?」

空を見上げると、雲一つない晴天。
蝉の声は五月蝿く響き、夏本番を告げている。
どう見ても雨が降る兆候は何一つない。

「チッ…暁丸塗装しちまったじゃねェかよ。」

ざりりと砂利を蹴りながら、元親は忌々しげに言う。
先程からの元親の言葉が不思議で仕方ない政宗は、傍らを歩く元親に問い掛けた。

「…なァ。」
「あ?」
「本当に雨降るのか?」
「くるぜ、すげェのが。」

政宗の問いに、さも当たり前の様に答える元親。
政宗は再び空を見上げたが、其処にはやはり雲一つない。
ギラギラ照りつける太陽が眩しくて、思わず目を細めた。

「どう見ても降る気配ねェぜ?」

元親の言葉が不思議で堪らないといった様子で政宗は言う。
確かに蝉は五月蝿く鳴いた侭だし、頬を撫でる風も乾いた風で雨の気配はない。
政宗でなくとも首を傾げるだろう。
元親は漸く政宗の心中を察したのか、ニヤリと笑って告げた。

「…匂いがするんだよ。」
「匂い?」
「雨が降る前の匂い。」
「なんだそりゃ?」

スンと匂いを嗅いでみるが、道端の草の匂いと土の匂いしか感じられない。

「やっぱ、わかんねェかァ。」
「あぁ、全くな。」
「アンタでもわかんねェか。お?くるぜ、すげェの。」

元親はカラカラと笑いながら政宗の前に歩みを進める。
そして天に向かって手を伸ばした。
…と同時にポツポツと雨粒が落ち始め、あっという間に土砂降りに。
激しい雨に打たれながら元親は、後ろを振り返って政宗に言う。

「…な。降ってきたろ?」

まるで元親が雨を呼んだかのような頃合で降った雨。
元親が雨を司る神の様にさえ見えた政宗。
呆気に取られポカンとした表情で立ち尽くした侭の政宗に元親は声を掛けた。

「おーい、独眼竜ー。」
「すげェな、アンタ。」

驚きを隠せない様子の政宗に、元親は悪戯な表情で言う。

「少しは見直したか?」
「あー…ただの天然じゃねェな。」
「はっは、雨だけじゃねェぜ。季節の変わり目だってわからァ。」

フッと笑った元親の表情は、雨に濡れたせいもあっていつもと違って見えた。
少年の様な純真さと凛とした雰囲気が合わさって、政宗の心拍数を跳ね上げる。

「…考えてる事だって匂いでわかるぜ?」

そう言うと政宗の肩を抱いて、スッと顔を近付けた。
突然の元親の行動に反応出来ない侭でいると、唇に温もりを感じた。
掠め取る様に口付けた元親は、政宗をじっと見つめながら問う。

「…アンタ、俺に惚れたろ?」

傲岸不遜な表情で問い掛けた元親に、政宗は答える。

「…怖ェわ、西海の。俺の心の匂いまで感じたのかよ?」
「…まぁ、アンタ限定だけどな。」

口角を上げてそう言うと、再び政宗の形の良い唇に口付ける。
土砂降りの雨音に掻き消されながら、政宗は元親の背に腕を回した…。


―完―
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