My fuck'n valentine day
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「あれ?元親、ご機嫌ナナメ?」

教室最後部窓際の特等席で突っ伏して寝ていた元親に、慶次が声を掛けた。
普段からあまり空気を読む方ではないが、今日は一際勘に障る。
首だけもたげた状態で慶次を睨み付け、ドスの効いた声で短く答える。

「あン?眠ィんだよ。」
「…本当にそうなの?」

元親の不機嫌さの理由に薄々感付いている慶次だが、恋バナ好きとしては直接聞きたいらしい。

「…ッせ。ほっとけや。」
「悩み事あるならいくらでも聞くよ?」

恋バナが聞きたくてウズウズしている慶次は、元親の隣の席に腰掛ける。
頬杖を突いてニヤニヤしながら元親を見つめた。
脳天気な慶次に、元親の怒りゲージは溜まっていく。
ついにフルゲージになった時、声を荒げて言い放った。

「悩んでねェッつの!」
「えー…そうは見えないケド。」

ビキビキとこめかみに青筋を立てる元親に臆する事なく、慶次はグッと顔を近付ける。
ただでさえ鬱陶しい慶次に顔を近付けられた元親は、バンと机を叩いて立ち上がる。
騒々しい昼休みの教室は、ただならぬ元親の殺気に水を打った様にしんと静まり返る。
そして皆一斉に元親と慶次を見つめる。

「…元親ッ?」

皆の視線など気にもせず、元親は廊下に向かってズカズカと歩き出した。
慶次は慌てて後を追い、元親の腕を掴む。
元親は思いっきり慶次の手を振り払うと、低い声で告げた。

「…怠ィから帰る。」
「ちょッ…ゴメン!ねェッ?次の物理、出席危ないんじゃなかったっけ?」
「ッせ!てめェも自分のクラス帰れ!」

肩に引っ掛けた学ランを靡かせて、元親は不機嫌さを全開にして廊下を歩く。
途中の教室の出入り口では、下級生も同級生も入り乱れ人だかりが出来ていた。
1オクターブ高い声で騒ぐ女子達には目もくれず、大股で歩く元親。
そんな元親の後ろ姿を、人だかりの中で見つめる者がいた。
だが、その視線に元親が気付く事はなかった…。


―夜―
いつもよりもかなり遅い時間に、元親はバイト先から戻ってきた。
今日はバレンタインデー。
カップルにとっては一大イベントだ。
野郎だけのスタンドのバイトとはいえ、イベントの日の今日は休みの者が多い。
そのうえスタンドに来る客もカップルが多い。
窓拭きの時にはイチャつくカップルの姿が見たくなくても見えてしまう。
去年までは全く気にならなかったのに、今年はやたら気になってしまった元親の機嫌は更に悪い。
シャワーを浴びてロクに頭も乾かさず、ドサリとベッドに身を投げ出す。
手探りでTVのリモコンを手にすると、適当にボタンを押して放り投げた。

TVからはバレンタインデーの人気チョコレートランキングなどという今一番観たくない番組が映っている。
チャンネルを変えようとリモコンを探すが、さっき放り投げてしまったリモコンは遥か先の床に転がっている。

「チッ…」

わざわざリモコンを取りに起き上がるのも面倒臭い。
元親は舌打ちをすると、ゴロリと壁の方に体を向け目を閉じた。


苛立ちの原因は分かっている。
政宗は野球部のエース、しかもあのルックスだ。
先輩後輩問わず女子からの人気は高い。
分かってる…分かってはいるけど胸が痛む。
キリキリと締め付ける胸の痛みは、それだけ自分が本気だという証でもある。
今まで色恋沙汰には目もくれずバイク一筋だった元親にとって、この胸の痛みを完全に理解し切ったわけではない。
何故自分がこんな気持ちに…。
その事も元親の苛立ちに拍車を掛けていた。


ウトウトし始めた元親は、頬に温かさを感じて目を開く。
すると視界の端には政宗の姿が…。

「うぉッ?なんでお前がいるんだよ?」
「やっとお目覚めか?honey.」

不機嫌さMAXの元親を全く気にもせず、政宗はいつもの口調で告げた。
その時元親はようやく気付いた。
いつの間にか政宗に膝枕をされていた事に。
慌てて起き上がろうとすると、政宗は元親の両手を押さえてベッドに組み伏せた。

「随分とご機嫌ナナメじゃねぇかよ。」
「違ェッつの。疲れてんだよ。」
「Ah-hun? 学校でも不機嫌だったろ。」

図星を突かれた元親の目は泳ぐ。

「…見てたのかよ?」
「Yeah.」
「チッ…」

舌打ちをして政宗から顔を背ける。
政宗は元親に覆い被さると、頬を寄せ耳元で問い掛けた。

「…妬いてんだろ。」
「…あン?なんで俺が妬かなきゃなんねェ?」
「ッたく…素直じゃねェな。」
「ッせ!関係ね……ッ…」

抗議の言葉はフェイドアウトする。
文句の代わりに元親の唇から紡がれるのは、甘い吐息だけ。
突然唇に感じた温もりに、鼓動は一気にスクランブルブースト状態。
驚いて目を白黒させていると、政宗が耳元に唇を寄せて囁いた。

「…待ってたんだぜ?」
「…は?」
「…元親からのチョコレート。」
「…よく言うぜ。山ほど貰ってたじゃねェかよ。」

元親は不機嫌さを隠しもせずに言う。
朝から女子に囲まれている政宗を何度も見掛け、その度に苛立ちを募らせていた。
初めはしらばっくれようと思っていたが、あまりにも政宗が直球勝負に出たので元親もストレートに感情をぶつける。
あぁ、可愛い…。
焼き餅を灼く元親が無性に愛しくなる。
政宗は二回りは大きな元親の体を抱き締めると、愛しむ様に口付けた。
初めはキュッと唇を結んで抵抗していたが、優しく唇を舐め上げられゆっくりと力が抜けていく。
啄む様な政宗のキスは、元親の苛立ちを鎮めていった。
暫く甘いキスを交わし合うと、政宗はゆっくりと唇を離した。
すっかり政宗のペースに乗せられた元親は、顔を赤くしてそっぽを向いた。

「…ほら、やるよ。」

パーカーのポケットから小さな箱を取り出し元親の胸に置く。
黒地に深紅のロゴが入った箱をポカンと見つめながら、元親は問い掛ける。

「…お裾分け?」
「馬鹿野郎、違うッつの。」
「痛ッ!」

ピンと鼻を弾いて政宗は言う。
そしてフゥと溜め息を吐いてから、言葉を続けた。

「…全部就サンにやった。」
「…あン?」
「押し付けられたチョコレート。元親からのしか受け取る気ねェ。」

そう言った瞬間元親の顔はますます赤くなる。
政宗は固まった侭の元親に触れるだけのキスをして、フッと笑って告げた。

「…bitterだから、お前も食えるだろ。甘くねェの探すの苦労したんだぜ?」

政宗の言葉を聞きながら、元親はふと気が付いた。
元親が手にした箱は、ついさっきTVで観たチョコレートの人気ランキングの1位だった店の箱だという事に。
チョコレートを買う為の行列が、有り得ない程長く出来ている様子が流れていた。
政宗が自分の為にそんな行列に…その事が嬉しくて、元親は胸が熱くなる。
『ありがとう』と言いたいけれど、言葉が出てこない。
チョコレートの箱を手にした侭、政宗をじっと見つめる事しか出来なかった。

「…食ってみな。味は確かめたから間違いねェ。」
「…おゥ。」

深紅のリボンをほどいて、丁寧に包みを開ける。
普段は豪快にバリバリと包みを開ける元親の見慣れない仕草が、元親の想いが溢れている様で嬉しい。
政宗が見守る様に見つめていると、一つ摘んでパクンと口に入れた。

「…あ。」

元親は短く声をあげる。
香りはチョコレートなのに、ほとんど甘くない。
口の中に広がるのは、チョコレート本来の芳醇な風味だけだ。

「…甘くねェ。旨ェな、コレ。」
「だろ?」

自信ありげに政宗は言う。
政宗の顔を見て、元親はようやく自分の気持ちを理解した。
ナチュラルにそれを表せばいい。
疑問に思う事なんてない…と。

「サンキュー、政宗。」

元親はフッと笑って政宗に言う。
短い言葉ではあったが、元親の心中を知るには十分だ。
嬉しくなった政宗は、元親を腕の中に閉じ込めた。
だが元親は急にヘニョリと眉を下げ、言い辛そうに言葉を紡いだ。

「…あのよ…折角旨ェの貰っちまって悪ィんだけどよ…」

そこまで言って言葉を濁す。
自分の気持ちに整理がついていなかった元親が、バレンタインデーのチョコレートなど用意している筈もなく。
折角政宗が自分の為に用意してくれていたのに、何もないという事を気にしていたのだった。

しかしそこは政宗。
そんな事を気にする筈もなく。
普段と変わらない調子で言葉を返す。

「Hun, ンな事気にしたてたのかよ。」

そう言って政宗はチョコレートを一つ摘んで唇で挟むと、その侭元親の唇に重ねる。
元親がチョコレートを口に入れた刹那、政宗は深く口付けた。
ほろ苦いビターチョコレート味のキスは、寧ろいつもよりも甘く感じた。
口の中のチョコレートがすっかりなくなっても、甘いキスは止まらない…。

「…長ェッつの!」

鼓動がフルブースト状態の元親は、はっはっと浅い息を吐き出しながら吠えた。

「ククッ…俺の背中押さえ付けといてよく言うぜ。」

政宗の言葉で思い出してみると、確かに背中に回した腕でガッチリホールドしていたのは元親だ。
途端にカァッと顔が熱くなる。

「…ッせ!」

元親は顔を真っ赤にした侭、プイとそっぽを向いた。
それだけでは事足りず、ボスンと枕を被る。
見た目と違うウブな反応が、なんだかおかしくなる。
おかしいけれど、それ以上に愛しさがこみ上げてくる。
後ろから抱き締めて、枕を取り上げて言ってやる。

「チョコレートの代わりに貰っとくぜ…」

政宗は元親をギュッと腕の中に閉じ込めると、チョコレートよりも甘いキスの雨を降らせた…
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