バイオレンスハニー
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ボスンとベッドに身を投げ出す。
シャワーを浴びてロクに髪も乾かしていないが、そんな事は気にしない。
とにかく疲れた体を解放したかった。

つけっ放しにしたTVからは、お笑い芸人達の笑い声が流れる。
普段であればそれを見ながら笑い転げているところだが、今日はそれどころではない。
幸村とのグラウンド争いでエキサイトしすぎた政宗のHPは、スライムの一撃を喰らうだけでもGame Overになる程しか残っていない。

エアコンからの心地良い風。
帰りがけに買った500mlのコーラ。
政宗の疲れた体を癒やしてくれる必須アイテムだ。
ベッドに寝そべった侭、ペットボトルに口を付ける。
キツめの炭酸が染み渡り、カァッと無意識に呟いた。
まるでオヤジじゃねェか…と、一人ツッコミをしていると、廊下から物凄い足音が聞こえてきた。

「…Ah?」

ベッドから起き上がりどこの馬鹿か確認してやろうと玄関にたどり着いたと同時に、ドアが千切れんばかりの勢いで開かれた。

「上がるぜ。」

部屋の主の答えを聞く前に、ズカズカと上がり込んできたのは元親。
玄関に地下足袋を脱ぎ散らかすと、政宗のベッドに身を投げ出した。

「てめッ…何やってんだよ?」
「やっぱエアコンだよなァ…」

エアコンの風が一番当たる特等席で、元親は寛いでいる。

「お?いただきッ!」

政宗の飲みかけのコーラを、ゴクゴクと飲み干した。
政宗は床にドカリと座り込むと、ベッドで大の字になっている元親に問い掛けた。

「エアコンなら自分の部屋にもあるだろ?」

元親は怠そうな声で答える。

「あー…ブッ壊れた。」
「窓開けりゃいいだろ?」
「イヤだね。」
「ンだよ、それ。」
「物騒だろ?窓開けっ放しで寝たら。」

部屋が一階の元親の言葉は、確かにごもっともなワケだが…

「Shut up!お前が言うなッ!」

…誰が聞いてもそう言うだろう。
だが元親は全く気にせずに寝転んだ侭、ベッドの上の雑誌を読み始めた。
何を言っても帰るワケもない元親を見遣りながら、政宗は呆れた口調で言った。

「シャワー浴びてこい。」
「積極的じゃねェかよ。」
「馬鹿野郎…オイル臭ェんだよ!」

スンと鼻を鳴らして自分の匂いを嗅ぐと、カラカラと笑いながら言った。

「ははッ!確かにBPのオイルの匂いするな。」

起き上がった元親に、クローゼットからタオルを出して投げてやる。

「サンキュ。」

タオルを手にした元親は、タンクトップとパンツを脱ぎ捨てバスルームへ消えた。
脱ぎ散らかされた元親の服を慣れた手つきで洗濯機へ放り込む。
自分の甲斐甲斐しさに可笑しくなった政宗は、思わず苦笑いする。
そしてクローゼットから派手なボクサータイプの下着を取り出すと、バスルームの前に置いた。
それは元親が持ち込んだ物。
着替えから歯ブラシまでちゃっかり一通り持ち込んでいる。
勿論元親の部屋にも、政宗の私物が溢れているのだが。

そうこうしているうちにカラスの行水の元親が、バスルームから出てきた。
床に置かれた下着を当たり前のように身に着けると、まともに髪も拭かずにやおらベッドにダイブ。
毎度の事なので、政宗は気にもしない。
テーブルの上の煙草に手を伸ばし、キンとオイルライターの金属音をさせて火を点ける。

「一本くれよ。」
「吸うならコッチ来い。」
「チッ…」

のそりとベッドから起き上がると、床に座り込んで煙草に火を点ける。
勿論未成年だから違法なのだが、室内に他人が入る事もないのでやりたい放題だ。

「直せよ、エアコン。」
「金ねェし。」
「あんだけバイトしてりゃ、金も貯まるだろ?」
「マシンの為に働いてんだぜ?エアコンなんて直せっかよ。」

ドヤ顔で言われた政宗は、ニヤリと口角を上げて言い放つ。

「部屋貸してやってもいいぜ。」
「流石野球部エース!太っ腹じゃねェかよ。」
「一時間百円な。」
「ンだよ、それ?」

ククッと笑いながら灰をトンと灰皿に落とした。
そして政宗をまじまじと見つめながら、半ば呆れた口調で言う。

「…見た目によらずチャッカリしてるよな。」
「いい嫁になれるだろ?」
「ははッ!可愛げはまるでねェよな。」
「お前に可愛さアピールしても仕方ねェだろ?」
「確かに困るわ、そりゃ。」

プッと吹き出すと元親は煙草を灰皿に押し付けた。
再びベッドへ雪崩れ込むと、ボスボスと布団を叩く。

「あ?」
「…いいから来いって。」

政宗をじっと見つめながら元親は言う。
言われるが侭ベッドに上がると、元親の大きな体が覆い被さってきた。

「暑ィんじゃなかったのかよ?」
「エアコンかかってンだろ?」

政宗の視界がフッと暗くなる。
唇に感じたのは温もり…などという甘いものではなく、噛み付く様な野性的なキス。
マウント状態で荒々しくされるキスの味は、甘酸っぱさなど微塵もなく吸い慣れた煙草の味と仄かなコーラの甘さ。
マウント状態の元親は、唇から首筋にキスの雨を降らせていく。

「痛ッ…」

肉食獣が獲物を仕留める様に首筋に噛み付いた元親の顔を両手で挟んで引き離す。

「痕残るだろ?」
「蚊に喰われたッつっとけ。」

真顔で言った元親の言葉に、政宗はプッと吹き出してから言う。

「ッたく、デケェ蚊だな。」
「お前の血しか吸わねェけどな。」

そう言うと再び首筋に落とされていくキスの雨。
所有の華を咲かせるように、チュッと音を立ててされるキス。
チリリと感じる痛みでさえ、元親らしい愛情表現だと思ってしまう。
そんな自分に軽く呆れながらも、のし掛かった肉食獣の愛情表現を受け入れてやる。
暫くされるが侭にしていたが、突然元親の背中に腕を回してキツく抱きしめると素早く元親と体の位置を入れ替えた。
マウント状態の政宗は、口角を上げて言う。

「Hey!マウント取ったぜ。」
「はッ!だからどうしたよ?」

長い腕を伸ばして政宗の首に回し、グイと引き寄せ唇に喰らい付く。
政宗が応戦する様に角度を変えて唇を合わせると、元親は負けじと喰らい付く。
肉食獣がじゃれ合う様なキスを暫く続ける二人。
色気などという言葉は全く当てはまらないのだが、当の本人達にはそんな事は関係ない。
本能の侭に、ただひたすら唇を重ね合う。
政宗の背中に回した腕に力を籠めゴロリと体を反転させ、再びマウントを奪った元親。
ポジションでは劣勢の政宗だが、挑戦的な眼差しで下から見上げて問い掛ける。

「なぁ、暑いだけじゃねェだろ?」
「…あ?何がだよ?」
「わざわざ俺の部屋に来やがったワケ。」

カラカラと笑いながら元親は答える。

「…自意識過剰じゃねェ?」
「…お前に関しちゃな。」
「じゃあ、当ててみろよ。」

元親はフッと笑って言った。
政宗が思っているそれは、きっと元親が求めている言葉だろう。
子猫の様に甘える姿が見たくて、腹の上の大型肉食獣に甘い声で告げてやる。

「俺が欲しかったんだろ?Honey…」
「ククッ…正解。」

子猫の様に政宗にすり寄ると、首筋にキスを落としていく。
それはさっきまでの野生的なキスとは違い、砂糖菓子のように甘いキス。
元親がスルリとTシャツを脱がせてしまうと、政宗は耳元に唇を寄せて囁いた。

「体力残ってねェんだけどなァ…」
「…言ってな。いつもそう言っといて散々な目に遭うの俺だぜ?」

そう言った肉食獣を組み敷いて、射抜く様な眼差しで見つめながら答える。

「…確かにな。」
「…だろ?」
「覚悟しな。火点けたのはお前だぜ?」

そう告げると、政宗は元親に深く口付ける。
つけっぱなしのTVから流れる流行りの音楽にシンクロして、雄の獣の吐息が部屋に響いていく…。


†††

情事後の気怠さに身を委ね、野郎二人には狭すぎるベッドに並んで横たわる二人。
浅い吐息を吐き出しながら、政宗はエアコンのリモコンを手にして言う。

「暑ッちィ…」

思い切り下げられたエアコンから、冷たい風が吹き出す。
『強風』に設定されたエアコンの風は、汗ばんで額に張り付いた元親の前髪を靡かせた。

「てめェ…体力有り余ってんじゃねェかよ…」

クタリとベッドに身を投げ出した侭の元親は、前髪を掻き上げながら言う。

「お前が体力ねェンだよ。」
「あ?俺のドコが虚弱体質よ?」
「1ラウンドでKOされてンじゃねェかよ。」

負けず嫌いな元親は、政宗にのし掛かると額をゴツンと当てて言い返す。

「…体力勝負といこうじゃねェか?」
「Ha!明日の朝腰立たなくなっても知らねェぜ?」
「望むところよ…そっくりその侭返してやるぜ。」

噛み付く様なキスで始まった2ラウンド。
きっとこのまま朝までフルラウンド戦うんだろうなァ…と半分呆れながらも、野生的というより野獣そのものの元親が愛しくなる。
獣がマーキングするかの様に落とされるキスは、暴力的とも言えるのだが…


愛しいhoneyは、まさに『バイオレンスハニー』


 
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