【あの子】
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遠呂智が倒れ、世界が元に戻った。



目を開けると手を握っていたのは孫市で心配そうに、しかし自分が、望んでいる人物じゃない事を気にかけてか気まずそうに見ていた。

此処は自室。

体を起こすと同時に包むよう優しく抱きしめられその空気ですら壊れる物の様に静かに囁かれた。

「珍しい悪い夢だ。」

儂を責めた者達が苦しむのがか、

儂を置いて出ていった慶次が隣にいた事がか、


“あの子”の事がか。

「なぁ…あれはお前の幸せじゃあなかったろ?
政宗には青い空と海が似合う。
俺に見せてくれるって約束したじゃないか。
見せてくれよ、…ずっと…ずっと付いてくからよぉ…」

物好きと嘲笑するつもりが誰かのせいで弱くなった心には十分に沁みて目が熱くなる。

孫市の気持ちには気付いていた。誰よりも、彼奴よりも優しくしてくれる事にも。

「……慶次だって帰ってくるさ。」

「…意気地無しめが。」

「本命にゃ奥手なんでね。
それとも、強引に奪えば俺のもんになってくれんのか?」

「さぁな…」

優しく頬を包む手を、唇を拒まなかった。
最愛のとは全く違うが心地よく、いつもそう、狼狽し始めた頭を鎮めさせてくれる。


あの時と一緒だ。


“あの子”には、片目が潰れているだけで仲間外れにされる世界じゃ、蛇の肌を持っているなんて、とてもとても可哀想だと思った。

“あの子の父”はあの子の為に世界を作り直せば良いと言い、
“自称儂を大切に思う者”は非難もせずならば眠らせてあげるべきだと言った。

その言葉が余りにも優しくて、自分に不釣り合いな程優しくて、


頷いた。



「孫市は何時も儂を一般的正常にする。」

「…おかしくなったら何度でも戻してやるさ。」

“戻す”じゃない。元々おかしいんだ。

だが、安心をくれるその空気に自分はまた頷いていた。








自分を置いていった最愛の彼奴と同じ頃からずっと一緒だが変わらない距離で、少し遠いが愛してくれて、この幸せに慣れても良いと思い始めた頃、

また空間が歪み“儂等”しか好まない蛇の匂いがした。





嗚呼…儂の可愛い……




〜終〜
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