【ゲテモノ:8】
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向こうの連れの侍女がゆっくりと襖を開ける。


そこには政宗の母、義姫が立っていた。

「最近、無理をなさっていませんか?」

柔らかな口調で始まった母子の会話に自分はお邪魔かと、会話に入らず捌けるタイミングを読み始めていた。
だが、

「はい…しかし無理などは…」

「自分を過信するのはお止めなさい。仕事が滞ってるそうではないですか。
何度も言いますが貴方のやせ我慢が城の者やお竺の迷惑になるのですよ。
その治らない傷、痛むのでしょう?ゆっくりお休みなさい。治るまで、ゆっくりと。」

口調は柔らかい、が…相当引っかかる言葉だ…


「政務の件は仰られる通り…怠ってしまっていたと深く自省いたしまする。
…しかし傷の痛みはもう治まってます故、こちらには支障ありませぬ。」

「貴方は気にしていない様ですが、城の左側は簡単に落とせると思われてしまっているでしょうね。
それに同い歳の中ですら小さな背だというのにひとりで伊達を支えるのは大変でしょう?
悪態だけで守れる国はありませんよ。」



…駄目だ。

じくじくと痛ぶる言葉にたまらず物言いかけるが政宗に制される。

「何度言えば分かる。生首になりたいか…?」

「怯えて自分の信念曲げられるほど賢くないんでね!」
「ならばわしの天下に付き合うとは嘘か!?これ以上無礼を働くならばもう許さぬぞ!?」

毎度の無礼なのにどこか必死な政宗に口を噤んだ。
一つ息をして母へと向き直り非礼を詫びる声はもう落ち着いていたが、どんな表情をしてあんな事を言ってきた母を見ているのだろうか…

「ご心配有難う御座います。足りない分は能力で補えるよう精進いたします。
それに……城の守りは任せられる者が居ます故…「前田慶次、今度はお竺にも稽古をつけてあげてくださいね。よく見える傷が気になって手加減も大変だったでしょう?
お竺は素直で良い子ですよ。綺麗な顔で笑いますしね。」

優しい笑顔でなんて酷いことを言う…
子を持つ親が言う事だろうか。それに言葉を失う。



「それでは。」

去る背中に感じるのは呆れる程の嫌悪感。
今すぐにでも抗議してやりたいが先程の必死な政宗の顔が言葉を留まらせる。
足音が完全に聞こえなくなるまで我慢するしかなかった。


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