【無題(蛇の世界で)】
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「孫市!何故儂から逃げたのじゃ!?」


事有る毎に蒸し返し何度も何度も同じ理由で怒鳴る。
普通ならうんざりするだろうが俺は少し安心している。

最近政宗の表情がずっと乏しくなっていたから。
蜀軍には馴染めないようで最低限以外の話をするのは俺と幸村くらいだった。
孤立する姿が心配になり声をかける奴はたくさんいたが政宗の暴言に耐えられはしなかった。(幸村にだけは暴言らしい暴言は吐かない。)





「悪かったよ…
異様な皮膚の色の奴らが気持ち悪くってね、頭が動転してた…」

「嘘じゃ!儂が嫌だったからじゃろう?儂と居るのが耐えられんかったから逃げたんじゃろう!?また儂から逃げる気じゃろう!?」

「…嫌なら今だって一緒に居ないしな、首切ってたか捕虜として牢屋だろ。」

喚いていた政宗が急に今にも泣きそうに下を向き黙る。

「悪い…」

頭をなでると涙をこぼししがみついてきた。


政宗はずっと弱くなった気がする。
皮だけは厚く鎧のように堅く尖り誰も寄せ付けず…

「居るよ。政宗のそばに。もうどこにも行かない。」

掴む力と泣き声が大きくなった。


随分大声で泣いて、それが止んでもしがみついたままだったがやがてぽつりと話し始めた。




「全て奪えるのは暴力ではない。愛なのじゃ…」

あいつはなんて言ってなぐさめてたんだ、何を言ってお前から全て奪ったんだ?
抱きしめることしかできなくて。

「遠呂智を拒むならこの世は遅かれ早かれ終わる。人は愛を言い訳に他人を壊す…綺麗な言葉で人を追いつめ無垢なふりをした指で殺し合う…」



何を言いたいのかわからない…
そんな考え方を刷り込んだのは居なくなったあいつを埋めるためか、それともあいつなのか?

俺の知っているあいつはそんな考え方をするようには思えなかったが、俺の知っているあいつならこんなになる人間を最悪な状態で捨てるわけがない…


「愛は人を壊す…愛しいという暖かさが病のように…熱い…」

わからない…



「政宗…大丈夫だ、少しでも希望を持ってさえいればきっと全てうまくいく。」

「…聞きとう無い…」

「そばにいるから…」

「聞きとう…無い……」




政宗はそのまま眠ってしまった。
政宗が怒鳴る度、同じ繰り返し。



何度も何度も………









必ず来ると思っていた日だが漠然とまだ先だと思っていた。


戦場に揺れる金糸。


まだ会わせるべきでないと政宗を押し戻そうとしだが、涙を流しながらこぼした寝言を思い出し体が一瞬止まった。
正直小さな期待もしていた。


俺は…やっぱりお前が好きだから、お前の望むもので幸せになって欲しかったから…


「慶次…」


………………輝くその目は正気だと思えなかった。

「慶次……!けえぇぇじ!!!」



愛する者と一緒にいることが何よりも幸せだといったい誰が言ったのだろう。









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